Greeting センター長あいさつ
「21世紀は脳の世紀」を
体現するべく、
最速で研究を展開
神経内科教授中原 仁
Jin Nakahara
2021年時点で30億人以上の方が神経疾患を患っていると報告されています(Lancet Neurology 2024)。さらに世界中の希少疾患患者(3億人)の半数は神経疾患です(Lancet Neurology 2022)。
1990年に始まった「ヒトゲノム計画」、さらにはMRIやPETなどの非侵襲的検査技術の台頭で、これら神経疾患を正確かつ早期に診断することが可能になってきました。並行してさまざまな遺伝子改変動物モデルが開発され、病態の解明から治療薬の開発が進むと期待されましたが、必ずしも成功に至っていません。ヒトと動物ではその寿命も複雑さも異なり、全く同じ状態を再現することができなかったのです。しかし2006年に山中伸弥博士らがiPS細胞の作成に成功し、突破口が得られました。患者さんからいただいた少量の血液などからiPS細胞を作成し、そこから神経細胞を作り出すーこうしてヒト神経細胞を用いて病気を解析することが可能になったのです。実際に本学の岡野栄之教授は代表的な神経難病であるALS(筋萎縮性側索硬化症)患者さんよりiPS細胞を作成し神経細胞を誘導、そしてALSに有効な薬剤(ロピニロール塩酸塩)の同定に成功しました(Nature Medicine 2018)。2018年、その有効性を検証する医師主導治験(ROPALS試験)が本学大学病院で開始され、2023年にその検証を終え、当該薬剤がALSに有効であることを示しました(Cell Stem Cell 2023)。この成功を受けて、私たちはiPS細胞研究により多くの神経難病治療が見出せると確信しました。
未だ治療のない希少な神経疾患を患って本学大学病院にいらした患者さんから直接iPS細胞を誘導し、研究を行って、治療薬をお届けする。そのような近未来を創造するべく、2024年4月、慶應義塾大学神経難病iPS細胞研究センター(KiND)を設立いたしました。
大学直轄センターとして学部や大学の枠組みを超えて、「21世紀は脳の世紀」を体現するべく、最速で研究を展開して参ります。皆様のご支援をよろしくお願いいたします。
Activity 本センターの活動
本センターでは、iPS細胞技術を軸として、基礎臨床一体型、学部横断型研究を展開することにより、神経難病の病態解明と治療法開発などに挑戦していきます。活動内容としては下記の通りです。
iPS細胞を用いた神経難病の病態研究
患者由来のiPS細胞を用いた疾患病態研究を更に加速していきます
新規治療薬の開発
治験が行われていない疾患も含め、病態に基づいた新規治療法開発に挑戦します
既存薬のドラッグスクリーニングと臨床への応用
既に他疾患に使用されている、安全性が担保されている薬剤を用いて
神経難病に有効な薬剤を探索します
若手研究者の育成と支援
神経難病研究における 次世代研究者の育成と研究環境の整備にも注力します